洋書、時々プログラミング

博士課程修了→メーカーという経路を辿っている人の日常

(読書)医学は何ができるか

4時間くらいかけて先月買った医学は何ができるか(ルイス・トマス)を読んだ。

タイトルは結構ゴツいけれど中身は作者の24編のエッセイで、ちょっとずつ読み進めることができた。

作者はアメリカの内科医でだいたい1930年あたりから医者として働き始めた。この頃はちょうど生物学や免疫学の研究が進んで来た時期で、医者のあり方もこの時代から変わり始めている。

 医者という職業は古くから存在していたが、医療が科学とリンクし始めたのは20世紀になってからだった。それまでは科学には基づかない、医者の思いつきのような治療法が試されていた。

 そのような状況は20世紀を境目に変わり始め、ウィリアム・オスラーが医学教育を組み上げた少し後の時代が1930年あたりである。オスラーの医学の中では、「説明」こそが医学の本来の仕事であるとして、治療よりも病気の診断となぜこの病気に罹患したか、そしてこの病気はどのような経過をたどるかを説明することに重きを置かれていた。

 ところが1930年台になると免疫学などが発展し、治せる病気が増えてきた。すると医学は説明から治療することに重きを置くようになった。そのうちにコンピューターもでき、画像検査も進歩するなど、医療の機械化が進むようになった。すると昔までの親しみが感じられる医者はいなくなり、患者の側からすると少し違和感を感じる時代となった。

 このような時代を医者として生きた作者がその中で何を感じたか、そして研究者として何に興味を持ってきたか分かるエッセイとして一つ一つ非常に楽しめた。沖縄戦にも従軍したようで、そこで何があったかも書かれていてとても興味深いものがあった。また、今までの医学を知ることで、これからの医学を知る助けになるかなとも思う。